名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)1247号 判決 1988年3月30日
原告
日動火災海上保険株式会社
原告(反訴被告)
松久株式会社
被告(反訴原告)
衣笠商事株式会社
主文
一 被告は原告日動火災海上保険株式会社に対し、金五四万三五〇〇円及び内金四九万三五〇〇円に対する昭和五八年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員、内金五万円に対する本判決確定の日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告松久株式会社に対し、金三八万七一〇〇円及びこれに対する昭和五八年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 原告松久株式会社(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金五万二二九八円及び内金四万七二九八円に対する昭和五八年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用中、本訴費用についてはこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とし、反訴費用についてはこれを一〇分し、その三を原告松久株式会社(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
七 この判決は第一項、第二項、第四項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 本訴請求の趣旨
1 被告は、原告日動火災海上保険株式会社(以下「原告日動火災」という)に対し、金八〇万五〇〇〇円及び内金七〇万五〇〇〇円に対する昭和五八年九月六日から支払済みまで年六分の割合による金員、内金一〇万円に対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告松久株式会社(以下「原告松久」という)に対し金五七万三〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 本訴請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 反訴請求の趣旨
1 反訴被告(原告松久のこと。以下「原告松久」という)は被告兼反訴原告(以下たんに「被告」という)に対し金一七万七六六〇円及び内金一五万七六六〇円に対する昭和五八年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告松久の負担とする。
3 仮執行宣言
四 反訴請求の趣旨に対する答弁
1 被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 本訴請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和五八年五月二六日午後一時三五分ころ
(二) 場所 岐阜市加納矢場町一丁目五一番地先
(三) 原告車 普通貨物自動車 岐四五す七七六〇
(ニツサンサニーバネツト)
右運転者 見知久男(以下たんに「見知」という)
右所有者 原告松久
(四) 訴外車 普通貨物自動車 岐一一う五五六三
(マツダタイタン)
右運転者 田島治(以下たんに「田島」という)
右所有者 名鉄運輸株式会社(以下「名鉄運輸」という)
(五) 被告車 普通貨物自動車 名古屋四五る八六五八
(トヨタカローラバン)
右運転者 森達也(以下、たんに「森」という)
右所有者 被告
(六) 態様
原告車運転者見知が、歩車道の区別のある片側二車線のアスフアルト舗装された道路の中央線寄り車線(以下「中央寄り車線」という)を、時速約四〇キロメートル(制限速度時速四〇キロメートル)で走行中、第一(左側)車線を後方から時速七〇ないし八〇キロメートルの高速で接近して来た被告車が約五〇メートル前方の信号交差点で右折のため車線変更をしようと突如原告車の左後方からかぶせて来て、被告車の右側前後部ドアー付近を、原告車の助手席ドアー付近に接触させたため、危険を感じた原告車運転者見知が右に急転把したところ、原告車は対向車線へ逸走進入し、たまたま対向走行して来た訴外車の運転席付近に原告車右前角部を衝突させた。
2 責任原因
本件事故は、被告車運転者森の制限速度違反及び安全運転義務違反による原告車に対する進路妨害の過失により惹起されたものであり、森は被告の業務執行中であつたから、被告は民法七一五条一項(使用者責任)に基づき後記損害を賠償すべき責任を負つている。
3 損害
(一) 原告車 金五〇万三〇〇〇円
修理代見積りが金九一万八九三〇円であるところ、車両時価額が金五一万円であるため、全損とみて、車両時価額から残存物価額七〇〇〇円を差引いた残額金五〇万三〇〇〇円の損害を蒙つた。
(二) 訴外車 金七〇万五〇〇〇円
修理代五七万三〇〇〇円と休車損害として一日一万二〇〇〇円の割合で一一日分の一三万二〇〇〇円合計金七〇万五〇〇〇円
4 代位弁済
原告日動火災は、原告松久との間で、原告車につき対物自動車保険契約を締結していたものであるところ、被告は、被告車が訴外車と直接衝突していないことを理由に訴外車の所有者である名鉄運輸に対する賠償に応じないため、原告日動火災は右保険契約に基づき原告松久の委任を受けて名鉄運輸に対し、昭和五八年九月六日前記損害額金七〇万五〇〇〇円を支払つて代位弁済をなしたので、原告日動火災は、被告に対し同額につき求償権を取得した。
5 弁護士費用
原告らは被告の本件不法行為により、本訴追行のやむなきに至り、左記弁護士費用の出捐を余儀なくされた。
(一) 原告日動火災分 金一〇万円
(二) 原告松久分 金七万円
6 よつて、
(一) 原告日動火災は被告に対し求償金七〇万五〇〇〇円ならびに、弁護士費用一〇万円及び右求償金七〇万五〇〇〇円に対する代位弁済の日である昭和五八年九月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、右金一〇万円(弁護士費用)に対する本判決確定の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、
(二) 原告松久は被告に対し本件事故に基づく損害賠償金五七万三〇〇〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五八年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、
求める。
二 本訴請求原因に対する認否
1 本訴請求原因1の事実のうち、(六)は否認し、その余は認める。
2 同2の事実は否認する。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実は不知。なお、支払い拒否の理由は、直接衝突していないからではなく、責任がないからである。
5 同5の事実は不知。
三 本訴抗弁
被告車運転者森は、本件事故現場付近まで第一(左側)車線を走行して来たが、前方約三〇メートル先の信号交差点を右折すべくウインカーを出して中央寄り車線に移行しようとして右後方を確認したところ、時速約八〇キロメートルのスピードで中央寄り車線を疾走して来る原告車を発見し、危険を感じて直ちに停止したところ、原告車はスピードの出し過ぎとハンドル操作の過ちから対向車線に突込み、折から対向進行して来た訴外車と正面衝突し、その反動で押し戻された原告車が停止していた被告車に衝突したものである。
被告車の進行していた第一車線は当時渋滞しており、被告車の速度は時速約五キロメートルであつたが、他方、原告車の進行していた中央寄り車線には他に走行していた車両はなかつた。
四 本訴抗弁に対する答弁
本訴抗弁は否認する。
五 反訴請求原因
1 交通事故の発生
日時、場所、原告車、訴外車、被告車については、本訴請求原因1(一)ないし(五)と同じであり、事故の態様については、本訴抗弁事実と同じであるからこれらを引用する。
2 責任
本件事故は、原告車運転者見知の制限速度違反およびハンドル操作のミスによつて発生したものであり、かつ見知は、原告松久の業務の執行中であつたから、原告松久は民法七一五条(使用者責任)に基づき被告の損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
(一) 被告車の修理費 一五万七六六〇円
(二) 弁護士費用 二万円
4 よつて、被告は、原告松久に対し、本件事故に基づく損害金一七万七六六〇円および内金一五万七六六〇円に対する本件事故日である昭和五八年五月二六日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
六 反訴請求原因事実に対する認否
1 反訴請求原因1の事実のうち、事故の態様は否認し、その余は認める。
2 同2の事実は否認する。
3 同3の事実のうち、被告車の修理費については認め、その余は不知。
七 反訴抗弁
本訴請求原因1(六)と同じ。
八 反訴抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠
本件記録中の各書証目録及び各証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本訴請求原因について
1 本訴請求原因1は、(六)(本件事故態様)の点を除いてすべて当事者間に争いがない。
2 そこで、本件事故の態様、原告松久側の過失の存否・程度及び責任原因(本訴請求原因2)について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第六ないし第八、第一〇ないし第一三号証、証人田島治、同見知久男、同森達也、同藤井竜一の各証言並びに前記当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場付近道路はアスフアルト舗装され、路面は平坦で乾燥しており、見通しは良好であり、制限速度四〇キロメートル毎時の交通規制がなされていた。
(2) 被告(会社)の従業員であつて、その業務執行に従事していた森は、被告車を運転し、前記1の日時ころ岐阜市加納矢場町一丁目先道路を同市加納花ノ木町方面に向かつて、当時渋滞していた第一(左側)車線を時速約五キロメートルのスピードで走行して本件事故現場付近にさしかかつた際、約一〇〇メートル前方の交差点を右折するため、中央寄り車線に進路を変更しようとしたのであるが、中央寄り車線には同一進路を後方から進行して来る原告車があつたにもかかわらず、後方の安全を十分確認することなく、原告車との車間距離約一六・五メートルの時点で右折合図しただけで、急に中央寄り車線に進入したため、中央寄り車線を後方から進行して来た見知運転の原告車が被告車との衝突を回避するためハンドルを右に切つて対向車線に飛び出したところ、折から、対向車線を走行して来た田島運転の訴外車の右前部運転席付近に原告車右前角部を衝突せしめ、さらにその反動で押し戻された原告車後部を森運転の被告車右側面に衝突せしめた。
(3) 原告松久の従業員であつて同原告(会社)の業務を執行していた見知は、原告車を運転し、前記道路を被告車と同一方面に向かつて中央寄り車線を時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で走行して、本件事故現場手前付近にさしかかつた際、第一(左側)車線を先行して走行している森運転の被告車の動静に十分注意しないで被告車が中央寄り車線に進入して来ることはないものと軽信し、減速することなくそのままの速度で進行を続け、約一六・五メートルの距離に接近したところ、被告車が右折合図をして急に中央寄り車線に進入して来るのを発見したので、被告車との衝突を避けるため、急にハンドルを右に切つて対向車線に進出したため、前記の衝突事故が発生したものである。
(4) 前掲証拠中右認定に反する部分は、あいまいかつ不自然であつて、採用し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二) 右認定事実によれば、被告車運転者森には、右後方の安全を十分確認することなく、急に中央寄り車線に進入した過失があるというべきであり、しかも、証人森の証言によれば、森は勤務先である被告の業務執行中に本件事故を惹起したものであることが明らかであるから、被告は民法七一五条一項に基づき、本件事故による損害を賠償すべき義務があるものと認められる。
また前記認定の事実によると、原告松久の従業員である見知には、当時渋滞中であつた第一(左側)車線を進行する車が自車の前方の中央寄り車線に進入してくることがないものと軽信して、これら前方の車の動静を十分注視しないで進行した過失がある。
(三) 以上認定の事実により本件事故関係者の過失の態様、程度を比較検討すると、原告松久側の過失割合は、三〇パーセント、被告側の過失割合は七〇パーセントと認めるのが相当である。
3 本訴請求原因3の事実、原告らの損害について判断する。
(一) 原告車の損害
成立に争いのない甲第二号証によれば、本件事故により原告松久所有の原告車は大破し、約金九一万八九三〇円の修理費用を要するところ、原告車時価額が金五一万円と認められ(推定全損)、残存物価額七〇〇〇円と認められるから、原告松久は、原告車時価額から残存物価額を差し引いた金五〇万三〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。
しかし、原告松久側には前記認定の割合による過失があるから、右損害につき過失相殺をすると金三五万二一〇〇円となる。
50万3000×(1-0.3)=35万2100(円)
(二) 訴外車の損害
成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一、二によれば、本件事故により訴外車の修理代金五七万三〇〇〇円の損害が生じたこと、そのため一一日間の休車をやむなくされたこと、一日当りの休車損害は一万二〇〇〇円が相当であるから、金一三万二〇〇〇円の休車損害が生じたことが認められ、したがつて右合計金七〇万五〇〇〇円の損害が本件事故による訴外車の損害と認められる。
4 本訴請求原因4の事実について
成立に争いのない甲第四、第五号証によれば、原告日動火災は、原告松久との間で、原告車につき、対物自動車保険契約を締結していたところ、被告が損害賠償責任がないと主張して賠償に応じないので、原告日動火災が、右保険契約に基づき原告松久の委任を受けて名鉄運輸に対し昭和五八年九月六日、前記損害額金七〇万五〇〇〇円を代位弁済した。
5 前記認定のとおり、名鉄運輸の損害は被告車運転者森と原告車運転者見知との共同不法行為により発生したものであるから、森の使用者である被告と見知の使用者である原告松久も共同不法行為者として不真正連帯責任があるが、被告と原告松久との間では各車両の運転者の過失割合により負担部分が決まり、負担部分を超える賠償をした者は他方に対して求償し得べき関係にあると認められる。
右両者の過失割合は前記2(三)認定のとおりであるから、原告松久は前記認定のとおり原告日動火災に委任して名鉄運輸に対し金七〇万五〇〇〇円を支払つているので、原告松久の負担部分である右金員の三〇パーセントである金二一万一五〇〇円を超える部分金四九万三五〇〇円について被告に対し求償権を取得したことになる。
そして原告日動火災は前記原告松久との保険契約に基づき前記のとおり七〇万五〇〇〇円の保険金を支払つているので保険代位によつて原告松久が被告に対して有する右求償権金四九万三五〇〇円を取得したものと認められる。
6 本訴請求原因5(弁護士費用)について
弁論の全趣旨によれば、原告らは本件事故に基づく損害賠償請求、求償金請求のため弁護士に本件訴訟代理を委任し、その報酬として相当額を支払う旨約したものと認められるが、本件訴訟の経過、事案の難易度、請求認容額その他諸般の事情を総合斟酌すると、原告らが本件事故と相当因果関係のある損害として被告に請求しうる弁護士費用は、原告日動火災が金五万円、原告松久が金三万五〇〇〇円と認めるのが相当である。
7 右3(一)、5、6の各損害を合計すると、原告松久は被告に対し本件事故に基づく損害賠償として金三八万七一〇〇円、原告日動火災は被告に対し求償金及び弁護士費用として計金五四万三五〇〇円をそれぞれ請求しうることになる。
二 反訴請求原因について
1 反訴請求原因1、2の各事実については、前記理由一1、2(一)(二)記載のとおりであるから、これを引用する。
前記のとおり原告松久は、原告車運転者見知の使用者であり、本件事故は見知が原告松久の業務執行中に前記認定の過失により惹起したものであるから、原告松久は民法七一五条一項により、被告に生じた損害につき賠償責任を負うが、被告側にも前記一2(三)認定の割合の過失が存在する。
2(一) 反訴請求原因3(一)については、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件事故による被告車の損害(修理費)としては、金一五万七六六〇円が相当と認められる。
被告には前記認定の割合の過失があるから、右損害につき過失相殺すると、金四万七二九八円となる。
15万7660×(1-0.7)=4万7298(円)
(二) 同3(二)(弁護士費用)について
弁論の全趣旨によれば、被告は本件事故に基づく損害賠償請求のため、弁護士に訴訟代理を委任し、相当額の報酬を支払うことを約したことが認められる。
訴訟の経過、事案の難易度、請求認容額、その他諸般の事情を総合斟酌すると金五〇〇〇円を本件事故と相当因果関係ある弁護士費用として原告松久に負担させるのが相当である。
(三) 右(一)(二)の各損害を合計すると金五万二二九八円となり、被告は原告松久に対し本件事故に基づく損害賠償として右金員を請求できることになる。
三 結論
1 以上によれば、原告日動火災の被告に対する本訴請求は、本件事故に基づく求償金及び弁護士費用合計金五四万三五〇〇円及び内金(右金員から弁護士費用を除いた分)四九万三五〇〇円に対する代位弁済の日である昭和五八年九月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(原告日動火災の請求する本件求償債権は保険代位により取得した不法行為に基づく損害賠償請求権にほかならないから、これをもつて商行為によつて生じた債権ということはできないから遅延損害金につき商法五一四条の適用はない)、内金(弁護士費用)五万円に対する本判決確定の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを正当として認容することとし、その余は理由がないから棄却することとする。
また原告松久の被告に対する本訴請求は、本件事故に基づく損害賠償金三八万七一〇〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五八年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないから棄却することとする。
2 被告(反訴原告)の原告松久(反訴被告)に対する反訴請求は、本件事故に基づく損害賠償金五万二二九八円及び内金(右金員から弁護士費用を除いた分)四万七二九八円に対する本件事故日である昭和五八年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容するが、その余は理由がないから棄却することとする。
3 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 神沢昌克)